「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。Replanでは、そんな家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしています。今回は、山形県を拠点に注文住宅を手がける金内勝彦設計工房の金内 勝彦さんです。
住宅の愛称「スロープの家」が示すように、一番の設計条件は、車椅子で過ごすご家族のために、1階から2階までをスロープで行き来できる住まいにすることでした。あえてエレベータはつくらずに体力維持に努めてほしいという意図に、Hさんの強い想いと愛情を感じました。
敷地は、山形市街地に位置しています。1本細い通りに入った場所なので比較的落ち着いた雰囲気がありますが、意外と車や人通りがありプライバシーに配慮する必要がありました。それとともに外観は、床面積100坪を超える建物の圧迫感を抑えるため、正面1階を下屋とし、屋根をそのまま1間張り出す軒形状にすることで高さを抑え、建物の大きさを感じにくくしています。
2階までスロープをつくるとなると、たくさんの課題とぶつかります。どのくらいのスロープ勾配が適正なのか、平面にどう配置するのか、ほかの部屋は法的に破綻することなく配置できるのかなど…。そこで、自力で上ることができると聞いた公共施設の勾配を現地で調べ、実際にその1/10勾配のモックアップをつくり、車椅子でのぼってもらい確認しました。
勾配部分だけで28mにも及ぶため、敷地の間口いっぱいを使い、片面(奥側)に寄せて折り返して配置することにしました。それによって他の3面に採光窓が取れるようにし、スロープに接する部屋は高く吹き抜けにしたハイサイドライトで採光を確保しました。
毎日楽しく2階まで上るため、子どもたちが遊ぶボルダリングや滑り棒を同じ空間に配置したり、2階の部屋の窓からスロープに顔を出せたり、上るとすぐに猫部屋があったりと、縦方向のにぎやかな空間構成とともに工夫を凝らしています。
施工した畠山工務店さんは自社大工さんを大切に育てており、今回はプレカットではなく、棟梁が板図に番付けして墨付けをし、手刻みで木加工を行いました。また、当社独自の標準施工手引書に基づいて、着工前に主要な職人さんを集めて勉強会を開催し、施工品質に関わる施工方法の共有化を図りました。
施工中、後戻りできない重要な10回のタイミングで監査と撮影を行い、127ページにも及ぶ現場監査記録書を提出。Hさんご家族からは、「とても安心できます!」とのお言葉をいただきました。設計はもちろんのこと、見えなくなる部分の監理業務の大切さを、これからも伝えていけたらと思います。
■建築DATA
山形県山形市・Hさん宅
家族構成/大人3人、子ども2人
構造規模/木造・2階建て
延床面積/住宅:315.94 m²(約95坪)、ガレージ:19.87 m²(6坪)設計/(株)金内勝彦設計工房 金内 勝彦
施工/(有)畠山工務店
撮影/長岡 信也
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