「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2020」の発刊に合わせて、さまざまな意味での「デザイン」に優れた家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしていきます。今回は、岩手県盛岡市を拠点に注文住宅を手がける吉田建築設計・計画事務所の吉田 宏民さんです。
岩手県盛岡市・吉田さん宅/夫婦50代
設計/吉田建築設計・計画事務所
施工/ウチノ建設
時間軸という視点を忘れずに
ひと口に住宅といってもさまざまな形態があります。戸建て、タウンハウス、マンション、そして新築、分譲、賃貸。どれも一長一短ありますが、新築の戸建て住宅は、生活空間を主体的に具現化できるという点で、最も有利なかたちといえるでしょう。
立地や周辺環境、機能的な使い勝手、居心地の良さ、快適な温熱環境など、さまざまな配慮は大切ですが、その一方で、住み手の思いや要望が、住まいとの長いつき合いの中で徐々に変化していくのは不思議なことではありません。そして建物自体もいずれ経年変化していきます。設計の際はこういった観点を忘れずに、長い間快適に暮らすことのできる住宅にしたいと考えています。
シニア世代の街なか居住を
寒冷地で考える
この設計では、これからシニア世代として年齢を重ねていく住み手の街なか居住を、寒冷地の戸建て住宅で考えてみました。盛岡市中心部に近い商業地域の一角にあり、敷地面積は約28坪。利便性は高いものの、約1.4mの高低差がある二面道路の角地という立地でした。
限られた面積を有効利用するため、建物はスキップフロアを採用しています。ガレージは低いレベルにピロティで確保。玄関およびポーチは半階高いレベルに設けました。1階は面積の約半分がガレージ、玄関ポーチ、倉庫といった外部空間。残りの半分が玄関、階段および個室といった屋内空間からなる構成です。
半階低いガレージの上部にあたる中2階は約8坪の納戸に、2階は約20坪の居住スペースとしました。居住空間はワンフロアで完結させ、ゆとりある階段や寝室と一体化した水まわりなどとともに、加齢に伴う身体能力の衰えに備える工夫をしています。
仕上材料は接した際の心地よさ、維持管理のしやすさ、将来の提供リスクの回避から、既製品の使用を極力避けました。将来の負担軽減を意図することは、シニア世代の家づくりでより重要だと考えます。そして、この建物の高い外皮性能は、盛岡という寒冷地においても、年間を通して居心地の良い快適な温熱環境を提供します。またヒートショック対策や、空間の有効活用、光熱費の低減にも効果的です。
■建築DATA
構造規模/木造・2階建て
延床面積/127.75㎡(約38坪)