「良いデザインの家」とは、見た目も間取りも、省エネ・省コストにつながる住宅性能も、トータルに考えデザインされた家。「美しく暮らす 東北のデザイン住宅2020」の発刊に合わせて、さまざまな意味での「デザイン」に優れた家づくりに取り組む東北の住まいのつくり手の声をお届けしていきます。今回は、秋田県大仙市を拠点に注文住宅を手がけるもるくす建築社の佐藤 欣裕さんです。


秋田県秋田市・Iさん宅/夫婦50代
設計/もるくす建築社
施工/タムラ・アシスト

自然と呼応して、感性を大切にする

厳しい気候の中でいかに自然を取り入れるかは常なる課題です。外部環境との間合いや距離感をいかにとるかで建築の性質が決まり、設備への依存度も変わります。行き過ぎた機械制御は本来人間が持っていたセンサーを鈍らせて、動物としての感覚を失わせていくように思います。現代社会の中で快適さを追求することは必要なことですが、思考停止に陥ることなく建築の原理を生かし、住まい手の感性を創造できるようなものとしたいと考えています。

「建築は枯れた技術で造ると良い」と聞いたことがあります。とても的を得ている表現で、基本的な素材を組み合わせていくことで突飛なディテールにならず、堅牢な印象になっていくのは望ましいことだと考えています。古きものから学び、未来を見据えて建築と向き合いたいと思っています。

窓まわりの植栽が住空間と暮らしを彩る
窓まわりの植栽が住空間と暮らしを彩る
木材と石の普遍的な組み合わせは時代を感じさせない
木材と石の普遍的な組み合わせは時代を感じさせない
南面の全景。高さを押さえて動きのあるファサード
南面の全景。高さを押さえて動きのあるファサード

外部との関係性を重視した
変形地に建つ住まい

築30年の住宅の建て替えにあたり既存住宅を拝見したところ、オーソドックスで敷地に対して適切な配置をしていると感じました。そこで周辺状況や敷地の高低差、外部への開き方を検討しながら、基本的なプランの流れは継承することとしました。結果的にH型の平面形状になり、2つの棟をつなぐように南北に抜けたガラスの空間が、外部を引き込むようにプランを構成しています。玄関やガレージから流れるように奥へと導く動線に絞りが効いたことで、単調にならず空間の強弱をもたらしています。

窓ガラスの性能が上がったことで「自由な意匠」を獲得し、南面以外をより積極的に活用できるようになっています。建物の気密化が図られ、通風から浮力換気が効果的になり、より外部、特に窓周辺の植栽などが建築物へ与える影響が大きくなるような設計としました。利己的な閉じたデザインから、外部との関係性を大切にした利他的な建築を目指しています。もちろん開口部が大きくても冬場の寒さとは無縁。日射の恩恵も十分に享受できるように、基本的な快適さを押さえたうえでのデザインです。

近くに住むご家族が集まることも多いIさん宅ですが、客間のような居室はあまり必要ないとのことでした。そこで日常で使える空間のボリュームを増やし、家の核をダイニングにすることで両ウイングにつながる居場所ができました。

また「暖かい室内にしてください」というのが唯一のリクエスト。外皮が大きくなる形状で日射取得・遮蔽も考えながら、熱効率だけではない豊かさを表現することが、今回プロジェクトの目的の1つとなりました。

玄関から流れるように続く動線に、奥の空間への期待が高まる
玄関から流れるように続く動線に、奥の空間への期待が高まる
建具を設けず間仕切り壁の配置によりゆるやかに動線を引く
建具を設けず間仕切り壁の配置によりゆるやかに動線を引く

北庭を望むキッチンに小さな食事場所を設える
北庭を望むキッチンに小さな食事場所を設える
素材数を抑えて天井も低く、密度を上げたダイニング空間
素材数を抑えて天井も低く、密度を上げたダイニング空間
ダイニングとは対照的に開口を絞って落ち着きある空間に仕上げたリビング
ダイニングとは対照的に開口を絞って落ち着きある空間に仕上げたリビング
2階の書斎。天井付近に排熱窓が見える
2階の書斎。天井付近に排熱窓が見える

■建築DATA
構造規模/木造・2階建て
延床面積/153.28㎡(約46坪)

(有)もるくす建築社
デザイン住宅実例

〜大町の家〜

バルコニーを覆い隠すような植栽。モミジが多いので紅葉も楽しみ
バルコニーを覆い隠すような植栽。モミジが多いので紅葉も楽しみ
植栽を生かした玄関ポーチ。ここの樹木はバルコニーからも望める
植栽を生かした玄関ポーチ。ここの樹木はバルコニーからも望める
家族をかばい守るようなアール天井。照明も換気扇もなくすっきりと。白壁とリネンのソファの組み合わせが美しい
家族をかばい守るようなアール天井。照明も換気扇もなくすっきりと。白壁とリネンのソファの組み合わせが美しい

〜佐戸の家〜

建物は東西に伸ばして南面を広く確保し、天井までのハイサッシで陽射しをとり入れる。奥の石壁は地域で産出される「院内石」で、これが蓄熱体となる
建物は東西に伸ばして南面を広く確保し、天井までのハイサッシで陽射しをとり入れる。奥の石壁は地域で産出される「院内石」で、これが蓄熱体となる
2階の水まわり。床材の十和田石は県内比内町で産出される。秋田スギの板材を荒めに加工した壁のテクスチャが個性的
2階の水まわり。床材の十和田石は県内比内町で産出される。秋田スギの板材を荒めに加工した壁のテクスチャが個性的
暖房は温水暖房を間欠的に使用。寝室も快適な温熱環境に
暖房は温水暖房を間欠的に使用。寝室も快適な温熱環境に

〜泉の家〜

クリの無垢フローリングと漆喰の塗り壁、薪ストーブが鎮座する土間と石の炉壁など、さまざまな素材が美しく調和するリビング・ダイニング空間
クリの無垢フローリングと漆喰の塗り壁、薪ストーブが鎮座する土間と石の炉壁など、さまざまな素材が美しく調和するリビング・ダイニング空間

〜K-house〜

炎の前でお気に入りの本を広げてのんびり過ごす休日は、ありきたりだがいつの時代も変わらない価値がある。壁面一体の本棚もいつしか蔵書と調度品で埋まり、住まい手の人柄が表現される
炎の前でお気に入りの本を広げてのんびり過ごす休日は、ありきたりだがいつの時代も変わらない価値がある。壁面一体の本棚もいつしか蔵書と調度品で埋まり、住まい手の人柄が表現される