点から面へ。高温から低温に。放射暖房は放射のみにあらず

裸火という「高温の点」に近かった採暖は、煙から熱を分離する努力の過程の中で姿を変えていきます。暖炉(500℃)・ストーブ(300℃)・ペチカ(100℃)、そしてオンドル(40℃)というように表面の温度は下がる一方で、加熱面の表面積は大きくなっていきます。こうして放射面を強烈に炙る裸火の 採暖から、壁全体・床全体から穏やかに温めるペチカ・オンドルなどへと、暖房は大きく進化したと言えます。こうして体全体から穏やかに放熱できる、快適で体にストレスがかからない温熱環境が手に入るようになったのです。

このように低温で暖房ができるようになると、火のような高温の熱源を部屋の中に置く必要がなくなってきます。ボイラーでつくった温水を循環させラジエーターから穏やかに放熱させる温水パネル方式(図8)は、快適性の高い暖房として寒冷地を中心に広く普及しています。

図8 放射パネル。温水により放熱する放射パネルは、窓下に配置することで窓からの冷気を対流で打ち消しつつ放射による暖房ができるメリットがある
図8 放射パネル。温水により放熱する放射パネルは、窓下に配置することで窓からの冷気を対流で打ち消しつつ放射による暖房ができるメリットがあり、空気の気流感を嫌うヨーロッパで人気があります。ただし、対流加熱による暖気が上方に滞留しやすい点には注意が必要です。放射パネルを主暖房とする場合は、パネル面積を大きめにとり分散して配置するのがポイントです。

現在でも多く使われているストーブや温水ラジエーターなど、放射を主とした暖房は「放射暖房」と呼ばれていますが、この名前にはちょっと注意が必要です。もちろん温められた表面からは遠赤外線が盛んに放射されていますが、同時に表面近くの空気も対流により温められています。一般的なストーブやラジエーターでは、放射と対流の加熱分は半々といったところです。

また、放射暖房にはファンヒーターやエアコンと違って空気を動かす能力がないので、温められた熱気が空間上部に溜まってしまう傾向があります。場合により、シーリングファンなどで空気を循環させる必要が出てきます。放射暖房を選びさえすれば、快適でムラのない環境が自動的にできてくるわけではありません。注意しましょう。

対流式暖房が現実に。アメリカ好みのセントラル空調

やがて建物の気密性が徐々に改善され、さらに電動ファンが登場すると、従来は不可能であった温風による「対流」暖房が普及しはじめます。特にアメリカにおいては、ダクトを全室に張り巡らせて温風を分配する対流方式のセントラル暖房が20世紀初頭あたりから広く普及します(図9)。その後に登場した冷房との相性も良かったことから、現在にいたるまで圧倒的な主流です。

図9 ダクト付セントラルエアコンとダクトレスエアコン
図9 ダクト付セントラルエアコンとダクトレスエアコン。アメリカではガスで加熱した空気をダクトで室内に送り込むセントラルエアコンによる対流式暖房が普及しました(左上)。現在では、ヒートポンプと組み合わせて冷房もでき、サーモスタットで温度制御を行うシステムが一般的です(左下・右上)。日本の屋内機から直接に冷温風を吹き出す「ダクトレス」エアコンは簡便ですが、温度ムラなどが大きくなる欠点があります(右下)。

温風により暖房を行う「対流式」暖房のメリットは、温風の風量と温度の調整がスピーディーにできることです。このため、室温を一定に保つアクティブな制御が可能となりました。従来の放射暖房では加熱面の表面温度しか制御できず、温熱環境は基本的に成り行きだったのですから、対流式暖房の制御性は大きなメリットでした。

ただし副作用として、アメリカ人の多くは在宅時にセントラル空調をつけっぱなしにしてしまうようになり、結果として膨大なエネルギーが浪費されています。最近では省エネのために、在室状況やユーザーの嗜好に応じて設定温度を自動調整するサーモスタットなども登場しています。

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