火を焚くほど、背中は寒く?
さて、寒冷地に移住した人類は「対流」と「放射」による放熱を抑えるべく知恵を絞ります。前者の「対流」による熱ロスを減らしたければ、「体表面での空気風速を減らす」「周辺の空気温度を上げる」の2つしか対策はありません。ある程度は衣類により対処することができましたが、建築による更なる対処は当時の建材では非常に困難でした。
暖をとるために、煮炊きや明かりに使っていた「裸火」をとりあえず流用することになります(図4)。火を焚くには外の新鮮な空気が必要で、さらに有害な煙は速やかに排出しなければ窒息してしまいます。この裸火の欠点により、建物は常に空気を通さなければなりません。つまり「外部風をシャットアウト」して「温かい空気で室内を満たす」という、「対流による放熱」の低減を実現することは全く不可能であったことが分かります。
「対流」での対策ができないスカスカ建物の外気が常に侵入してくる室内で体を温めるには「放射」を活用するしかありません。幸い?にして裸火はかなり高温ですので、遠赤外線がどんどん放出されています。つまり、初期の暖房は「放射」メインで行うしかなかったのです。
放射というのは、対流に比べると理解が難しい面があります。テレビのCMの影響なのか、「体を芯から温めてくれる」などと誤解している人がいます。しかし遠赤外線は魔法でもなんでもない、可視光や紫外線・電波といった「電磁波」の一種にすぎません。目には見えないけど熱だけを伝える「光の一種」だと思っておけば、ほぼ正解。実は、モノは絶対ゼロ度でないかぎり、何らかの電磁波を放出しています。低温であれば遠赤外線、高温であれば光を出すようになります。高温の火は目に見える可視光とともに、大量の遠赤外線を放出しているのです。
遠赤外線は目に見えない光のようなもの
ですから、基本的にはまっすぐにしか進みません。鏡などで反射させることは一応できますが、室内の建材などではほとんど吸収されてしまいます。つまり放射による加熱は、遠赤外線があたる方だけが加熱され、あたらない面は全く温度が上がらないことになります。これが、裏面にも速やかに空気が回りこんでくれる対流との大きな違いです。
こうした高温熱源からの放射オンリーで暖める方式を「採暖」と呼びますが、裸火からの遠赤外線が当たらない裏面は全く温まりません(図5)。むしろ断熱・気密のない中では裸火からの煙が強力に吹き上がり、それを補うべく下から外気が流入してきます。こうした「空気のドライブ」により冷たい隙間風にさらされるため、背中側は対流の力で強く放熱が進んでしまうことになります。そのため、火が当たる面は加熱・当たらない面は放熱というプラスマイナスを、体全体で辻褄をあわせるしかありません。
先に人類に必要なのは、「全身」から「適度」に「放熱」できる温熱環境であると言いました。こうした極端な加熱と放熱が「表裏一体」の状態は、人体に大きなストレスがかかります。こうした暑さと寒さが表裏一体の「採暖」の状態は、決して望ましくありません。
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