日射と大雨に備え 軒や庇を見直そう
寒冷地では、住宅の高断熱・高気密化といった「冬の備え」が急速に強化されています。一方で、夏への備えは後回しにされ、軒や庇が全く出ていない「のっぺらぼう」な家が増えている印象があります。
こうした軒や庇は、日本の家づくりでは伝統的に欠かせない要素でしたが、近年のデザイン流行やコストカットの影響なのか、なくて済ませてしまう場合が特に寒冷地では顕著です。しかし、軒・庇は特に南面開口部の日射遮蔽に有効なのはもちろんのこと、大雨時の開口部保護にも非常に効果的です。また強風時に物体が飛んできて窓ガラスを破損しないよう、シャッターやルーバー戸など、ガラスの保護部材を備えることも重要です。
気候の激化に備え、日本の気候に根差して編み出されてきた伝統的な建築要素から、有用なものはしっかり用いるべきでしょう。
夏の備えとしても高断熱は絶対必要
夏の暑さへの備えには、やはり高断熱が重要となります。「断熱すると夏暑くなるのでは」という意見がありますが、確かに内部発熱や日射熱がこもりやすくなるため、高断熱住宅では閉め切って無空調の状態では室温は高くなります。しかし、外が涼しい時期には窓を開ければ通風により熱気を抜くことができます。外気温が高くなってくれば、冷房がなければまともな生活をすることはできません。この冷房時の快適・健康を確保する上で、高断熱は絶対に不可欠なのです。
低断熱の高温放射環境が冷房嫌いの原因
「冷房をつけると気持ち悪い」という冷房嫌いの人は結構いますが、実は建物の断熱性が不足し、日射熱を防げていないことが一番の原因だと、筆者は考えています。図6のサーモ画像を見ると、低断熱住宅の冷暖時、天井や壁・窓の表面温度(放射温度)が非常に高いことがわかります。エアコンはこの暑い部屋をなんとか冷やそうと無暗に冷たい空気を吹き出すため、ひどく冷たい空気が身体にビシビシあたり、なんとも言えない不快を感じてしまうのです。図7の省エネ基準レベルの断熱をした住宅では、壁内側の温度はかなり低下しています。しかし壁掛けエアコンからの冷気の不快は残ったままです。
高断熱&全館冷房で空気と放射の温度差を解消
高断熱住宅で穏やかに全館冷房を行った物件のサーモ画像を、図8に示します。外は日射熱で非常に高温ですが、深く出された軒と可動ルーバーで日射は確実に防がれており、内障子により外の暑さは完全にブロックされています。そこを全館冷房で穏やかに冷やすと、高断熱の壁内側は穏やかに低温になります。
この連載で何度も論じているように、人体からは、空気への対流による放熱以上に、周辺物体への放射による放熱が起きています。高断熱&全館冷房による適度な放射温度の確保は、従来の低断熱&壁掛けエアコンとは比べ物にならない、快適で上質な涼しさを提供してくれるのです。「断熱は冬のためのみにあらず」。断熱は夏の快適な冷房にも不可欠です。
また、この物件にみられるような深い軒と可動ルーバーは、日射遮蔽や意匠面で優れているだけでなく、大雨時の防水や強風時のガラス保護にも有効なことも確認しておきましょう。
今回は、将来の気候変動に備え、自然災害が起きにくい安全な敷地選びと、日本の伝統技術と最新の性能を組み合わせる家づくりにより、未来に予想される過酷な気候変動にもきっと対応することができることを見てきました。安全で快適な生活を未来までずっと守る。先を見通した家づくりが必要な時代になっているのです。
※次回のテーマは<日当たりを考えた敷地と建物>です。
【バックナンバー】
vol.001/断熱・気密の次の注目ポイント!蓄熱大研究
vol.002/暖房の歴史と科学
vol.003/太陽エネルギー活用、そのファイナルアンサーは?
vol.004/「湯水のごとく」なんてとんでもない!給湯こそ省エネ・健康のカギ
vol.005/私たちの家のミライ
vol.006/窓の進化
vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
vol.008/冬のいごこちを考える
vol.009/電力自由化! 電気の歴史を振り返ってみよう
vol.010/ゼロ・エネルギー住宅ZEHってすごい家?
vol.011/冷房を真面目に考えよう
vol.012/ゼロ・エネルギーハウスをもう一度考える
vol.013/冬の快適性を図る指標「PMV」を理解しよう!
vol.014/エネルギーと光熱費最新事情
vol.015/夏を涼しく暮らすコツを考えよう
vol.016/冬の乾燥感
vol.017/採暖をもう一度科学する
vol.018/ゼロエネルギー住宅ZEH、本格普及へ
vol.019/夏の快適性をエリアで考える
vol.020/Wh(ワットアワー)とW(ワット)で考える非常時のエネルギー
vol.021/窓こそ省エネ・快適の最重要パーツ
vol.022/職住近接は地球にも人生にも優しい
vol.023/未来の気候に備えた敷地選びと家づくり
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