蓄熱は手強い。慎重な設計を
ここまで、蓄熱を有効に利用した事例をいくつかお見せしたが、いかがだっただろうか。再生可能エネルギー、特に太陽やバイオマス燃料の活用を目指して、蓄熱への関心は世界レベルで高まっている。日本でもさらなる発展が期待されるのであるが、今一度「熱冷まし」をしてから終わりにしたいと思う。
先に蓄熱は財布と例えたが、実は蓄熱は財布よりずっとタチが悪い。財布はカラでも悪さはしない。ところが蓄熱はムダにあると暖冷房の足を引っ張る、つまり「底冷え」「熱焼け」のリスクを招いてしまう。常時24時間空調を行っている家であれば大きな問題にはならないが、明け方にだけつけたり帰宅後に暖冷房を入れるような「間欠的」な運転をする家では大問題。そして日本のほとんどの住宅では、暖冷房は「間欠的」に必要な時だけONにしているのだ。
筆者は築30年以上の集合住宅に住んでいるが、ほぼ完全無断熱の上に北側を向いているので日射取得もほぼ望めない。追い打ちをかけるようにコンクリートの熱容量が足を引っ張って、夜に帰宅してからエアコン暖房をつけても温まるのに3時間以上かかってしまう。結果、就寝までに部屋が暖まることはなく、寒い凍えるリビングにほとほと手を焼いている。
よく、外断熱は内断熱に比べて優れているという。たしかにヒートブリッジ低減などのメリットはあるだろうが、熱容量を内側にもつべきかどうかは、暖房の使い方も含めて慎重にあるべき。蓄熱という財布を満たしてくれる「余った熱」のアテがないのであれば、ヘタにリスクを抱え込まない方が賢明かもしれないのである。
残念ながら現在でも、断熱・気密がどうしても理解できない、絶対にやりたくないという人が少なくない。そうした人たちは、断熱・気密を不要としてくれる「代替技術」を今日も一生懸命に探している。蓄熱も断熱を不要としてくれる秘策のひとつとして、「熱い期待」を受けているように見受けられる。しかしここで取り上げた物件は、きちんとした断熱を行った上で蓄熱を行っているものばかり。石やコンクリートなどの蓄熱体だけで断熱効果を得ようとすると、途方も無い厚さの壁が必要になることは覚えておきたい。
繰り返すが、蓄熱は不安定な再生可能エネルギーの利用に「不可欠」な重要技術である一方で、設計の難易度は高い。断熱・気密はコストの許す限り目一杯やったとしてもリスクは小さいのとは違うのである。きちんとした設計には事前の検討が不可欠。わたしの研究室でも、学生主体に日射取得や蓄熱効果を検証できる「ExTLA」というプログラムを開発し研究室HPで公開している(写真12)。今後は簡便な設計手法が確立し、日本中に無暖房住宅が普及することを期待したい。
※次回のテーマは「暖房の歴史と科学」です。