事例⑤ 無暖房住宅「エネマネハウス東大」

最後の実例として、筆者の関係した「エネマネハウス」を紹介しておこう。  エネマネとは「エネルギー・マネージメント」の略で、昨今のエネルギー逼迫に対して5大学から提案された住宅が、東京ビッグサイト近くの駐車場に実際に建設・公開された(写真7)。

写真7 5大学のエネマネハウス
写真7 5大学のエネマネハウス。エネマネハウス事業は、経済産業省資源エネルギー庁「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの標準化に係わる調査・実証事業」として実施された

この中で筆者の大学も参加し、「無暖房」を目標に設計した集合住宅の提案を行ってみた。 戸建て住宅では屋根集熱がメインになるが、集合住宅では南面での太陽エネルギー活用が重要となる。

写真8のように季節ごとに可変することで発電量を増やす太陽光発電とともに、大きな開口部から日射取得を行うパッシブ集熱を積極的に取り入れている。床面積70㎡程度の建物にこれだけの大開口で多くの日射を取り込めば、熱のバブル発生は不可避なところ。まさに蓄熱の出番である。

写真8 エネマネハウス東大の南側外観
写真8 エネマネハウス東大の南側外観。低層集合住宅を想定して南面での太陽エネルギー活用最大化を目指している

本物件では、床と天井にアルミパックに封入された潜熱蓄熱体を、天井材の裏に大量に設置している(写真9)。

写真9−1 エネマネハウス東大の室内
写真9−1 エネマネハウス東大の室内。大開口から大量の日射取得
写真9−2 天井・床面にアルミパックに封入された潜熱蓄熱体
写真9−2 天井・床面にアルミパックに封入された潜熱蓄熱体を設置
写真9−3 前日が晴天だった1/25の明け方
写真9−3 前日が晴天だった1/25の明け方。天井の蓄熱が顕著
写真9−4 エネマネハウス東大の日射取得・蓄熱状況
写真9−4 エネマネハウス東大の日射取得・蓄熱状況。天井と床に封入された潜熱蓄熱体が昼間に吸熱、夜に放熱することで、暖房をほとんど使わずに室温を維持することが可能となった。前日が曇りでかつきびしい冷え込みだった1/27明け方の天井。放熱が尽きている

この蓄熱体が日中の日射熱を吸収し、夜間から明け方にかけて放熱することで、室温を20℃程度の快適な範囲に維持することが可能となっている。図6に実証期間中(1/25〜1/27)の外気温度と室温の推移を示すが、もっとも冷え込みが厳しかった1/27の明け方においても、ほとんど暖房を使うことなしに室温は20℃を維持できている。

図6 エネマネハウス東大の検証期間中における室温推移
図6 エネマネハウス東大の検証期間中における室温推移。暖房をほとんど用いることなく、終日20℃以上を維持できていたことが分かる。日中のオーバーヒートも効果的に抑制されている

写真9の室内のサーモ画像より、前日に十分蓄熱できていた1/25の明け方は特に天井面からの放熱が観察されており、潜熱蓄熱体が明け方の冷え込み緩和に有効に機能している。冷え込んだ1/27の明け方は前日が曇りだったこともあって放熱は減少しており、「ぎりぎりセーフ」だった様子が分かる。このように、潜熱蓄熱体は融点や蓄熱量を適切に設計できれば、その温度安定効果は極めて高い。

写真10 透光断熱材と潜熱蓄熱体
写真10 透光断熱材と潜熱蓄熱体が片面ずつ仕込まれている建具。日中は窓側に潜熱蓄熱体、室内側に透光断熱材の面を向けておくことで室内のオーバーヒートを防ぎつつ蓄熱が可能である

この物件では、さらに日射制御と蓄熱にひと工夫を行っている(写真10)。これは開閉可能な建具の面に「透光断熱材」とカプセル封入された「潜熱蓄熱体」を表裏にして貼り付けたもの。日射が強くオーバーヒートが懸念される日の昼にはこの建具を閉鎖し、蓄熱体を窓側・断熱材を室内側に向けて配置する。窓と建具に挟まれた空間の温度は上昇して効果的な蓄熱が行われるとともに、室内のオーバーヒートを抑制することが可能である。夕方にはこの面を裏返すことで蓄熱された面を室内側に向け、夜の温度維持に利用することが可能となる(写真11)。

写真11 夕方になったら裏返して潜熱蓄熱体の面を室内側に
写真11 夕方になったら裏返して潜熱蓄熱体の面を室内側に向けることで、夕方から夜にかけて放熱させて室温を維持させることが可能となる

こうした窓際での蓄熱手法として、以前よりレンガや水による「トロンプウォール」がよく知られているが、重量がかさみ光環境や視覚の面からも課題が多かった。今後、潜熱蓄熱などを含め、新しい素材を活用した建築や建具の工夫を期待したい。

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