非常時の暖房機器は燃料確保とワットから選ぶ

暖房に必要な熱量を熱損失係数Q値から計算してみると、室内を屋外から20℃温めるためには数千ワットの熱が必要です。断熱・気密に劣るQ値が大きい家では特に大量の熱が必要になり、非常時にエネルギー供給が限られた状況では寒さが厳しくなります。

本誌でよく取り上げられる、熱の逃げが少ない(Q値が小さい)高断熱・高気密の物件では必要な熱負荷が少ないため、窓から入る日射熱などで室温をある程度確保することが可能です。ただ、寒冷な時間帯にはやはり暖房が必要になります。

普段の状況であれば、エネルギー効率が高く空気を汚さないエアコンがよいチョイスですが、エアコンの大きなワットを賄えるだけの停電対策の蓄電設備を持つのは大変です。電気を使わずに貯められる燃料で利用でき、かつ十分にパワフルな暖房機器となると、石油ストーブが現実的です。石油は備蓄が容易で、3000ワットのパワーは暖房に十分です。

石油ストーブの利用は控えめに。窓開け換気は必須

しかし電気を必要としない開放型の石油ストーブは排気ガスをそのまま室内に放出するため、空気が入れ替わりにくい高気密住宅では空気質の悪化が心配です。図3に示すように、石油ストーブをつけていると一酸化炭素(CO)や二酸化窒素(NO2)が許容度を簡単に超えてしまいます。さらに石油は硫黄やさまざまな有機化合物を含むので、ガス燃料に比べても空気質汚染が深刻です。やむを得ず開放型の石油ストーブを用いる場合は、なるべくパワーを下げて燃焼量を減らし、こまめな窓開け換気を欠かさないようにしましょう。

図3 開放型の石油ストーブは室内空気汚染の大きな原因
開放型石油ストーブは簡便で非常時にも利用できますが、石油を燃やした排気ガスをそのまま室内に放出するため、COやNO2、その他の汚染物質による空気汚染が懸念されます。利用時には定期的な窓開け換気が必須です。
出典:生活衛生 Vol.49 No(2005)宮崎竹二 暖房による室内空気汚染の変還

電力供給が依然脆弱な北海道において、この冬に非常時の暖房をどう準備すべきかが大きな課題となっています。燃料確保やパワーだけでなく、室内の空気質確保も忘れてはいけません。

給湯がワットのチャンピオン。非常時の確保はかなり困難

数千ワットの熱が必要になる暖房をどう確保するか、冬の大きな課題ですが、上には上がいるものです。ワットのチャンピオンは、風呂やシャワーなどの給湯なのです。水は比熱が非常に大きく温まりにくい性質を持っているため、1分間に10リットル必要になるシャワーのお湯を温めるためには、実に万単位のワットが必要です。1リットルのヤカンの水をコンロで温めるのに結構時間がかかることを考えれば、給湯器がコンロ10個分に匹敵する、ものすごい加熱力を持っていることに気づきます。コンパクトな筐体の中でそれだけのガス・石油を急速に燃焼させるため、最近の給湯機では電気を使った給気・排気の強力なファンが必要になっているのです。このためガス・石油給湯器であっても停電時には運転ができず、災害時には湯が貯まっている貯湯式が有利になります。

極端に大きなワットが必要な給湯は、災害時に確保が一番難しく、長い期間にわたって風呂に入れずシャワーも浴びれず、とても辛かったという体験談をよく聞きます。ヤカンでお湯を沸かして体をふくのがせいぜいとなると、普段の快適で清潔な生活とのギャップを痛感せずにはいられないのでしょう。

普段供給されている電気とガスのワットを知っておく

こうしてみると、平時には電気やガスでエネルギーのワットがいかに潤沢に供給されているかに気づきます。図4をご覧ください。

図4 電気とガスの供給能力Wとエネルギー量Whの関係

電力会社からの電線が供給できるワットは事業者によって条件の差はありますが、5000ワット以上の電気を供給できるのが普通です。この大きなワットで家のさまざまな設備が必要とするパワーを賄っているのです。

ガスはさらに高熱量で、電気より1桁大きい5万ワットを供給可能。このパワーがあればこそ、従来から厨房・暖房・給湯といったワットが特に大きい用途を担ってきたのです。

なお、最近増えてきた太陽光発電は、3000〜1万ワットあたりの定格能力の発電パネルを屋根に載せるのが一般的です。定格能力は快晴の強い日射を想定しているので、実際の発電量は小さくなるものの、数千ワットは発電してくれます。停電時には自立運転に切り替えることで、パワコンの停電用コンセントから電気が取り出せます。ただ、出力は最大1500ワットまでで、天候の影響を受けるため不安定。また発電していない時間帯には利用できないので、過度な期待はできません。

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