にっくきカビやダニは湿気が大好き!
室内の湿気を増やすことに特段の害がないのであれば、好きなように加湿してかまいません。しかし、残念ながら図5にあげるように、むやみな加湿には多くのデメリットがあるのです。
空気に追加された大量の水蒸気は、結局どこかに出ていかなければなりません。換気装置がちゃんと動いていれば、汚れた空気と一緒に過剰な湿気も外に排出されます。ところが、日本では冷たい空気を嫌ってか、冬に換気をちゃんと運転していない場合が少なくありません。そうなると、湿気はどこか別のところにいくしかありません。つまり冷えた窓や壁表面、そして壁の中に侵入し、そこで空気は「露点温度」にまで冷やされ、空気の中にいられなくなった水蒸気がどんどん結露するのです。
インフルエンザウイルスは湿度が苦手でしたが、カビやダニは湿気が大好物です。彼らが壁の表面や内部に発生すると、胞子や死骸をまき散らすなどして室内空気を汚染し、アレルギーや喘息などの大きな原因となります。また、家をボロボロにするシロアリも、湿った木が大好物です。むやみに加湿を行うことは、建物の様々な部位をボロボロにして室内空気を汚染してしまうのです。
またメンテナンス不足の加湿器の中では雑菌が繁殖しやすく、加湿器そのものが空気の汚染源になるリスクがあります。韓国では加湿器にいれる殺菌剤が多数の肺疾患の原因であることが分かり、大きな社会問題となりました。快適に暮らすために動かした加湿器で空気が汚染され健康を害してしまうのでは、まさに本末転倒です。
加湿には結構加熱エネルギーが必要
また加湿には結構なエネルギーが必要なことも覚えておきましょう。図1の中の「エンタルピー」は、空気が持つ熱と湿度の熱量を示しています。東京の1月の外気1キログラムあたりのエンタルピーは12.8kJ、加熱して28.9kJ、加湿して43.0kJになります。つまり、加熱には16.1kJ、加湿には14.1kJのエネルギーが必要なのです。16℃の加熱と5.5グラムの加湿がだいたい同じなのですから、加湿は結構エネルギーを消費する、ということが分かります。加湿の電気代はバカにならないのです(図6)。
高温の空気こそが乾燥の最大の原因
先に述べた通り、世界中の研究の多くは「人間は湿度に鈍感」であることを示しています。ではなぜ、日本ではこれほどまでに乾燥感を訴える人が多いのでしょうか。
筆者は、暖房機からの「高温の空気」が主な原因だと考えています。人間が湿度に鈍感なのは、あくまで暑くも寒くもない中くらいの空気温度の場合です。高温の環境では、乾燥や湿潤に敏感になります。図7に示すように、日本では建物の断熱・気密性能が不足していたため、ファンヒーターやエアコンからの高温の温風で、ムリヤリに部屋を暖めるのが普通でした。こうした「ムリヤリ暖房」の高温空気は軽いので顔を直撃し、目や鼻・喉などを刺激して強い乾燥感を生じさせていると思われます。
そのため、乾燥感の根本的な解決のためには、建物の断熱・気密を改善し、エアコンからヌルい空気を穏やかに吹き出すか、床暖房やパネル暖房などを活用して、高温の空気を部屋の中からなくすことが最も効果的です。
自然な発湿と中温で「乾燥感」を減らそう
今回見てきたように、むやみな加湿は建物を傷め、室内空気を汚染させるなどの大きなリスクが伴います。また人間は湿度に鈍感な生き物であり、よくいわれる湿度50%を目指す理由も実はないことも分かりました。
結局のところ、湿度を特に操作する必要はあまりなさそうです。わざわざ加湿しなくても、図8に示すように室内には多くの発湿源があります。きちんと換気して室内の空気を清浄に保ちつつ、自然に発生している湿気で住む人に「乾燥している」と感じさせなければ、それでよいのです。
今回は、冬に苦情が増える乾燥感について考えてみました。日本では、乾燥するという症状に対して「ハイ加湿器」、といった対処療法が非常に多い印象があります。こうした場当たり的な対策では根本的な解決ができないばかりか、別の副作用を引き起こしてしまうリスクが大きいのです。目の前の問題から一歩引いて全体像を見回し、本当に効果的な対策を考えてみることが住環境には不可欠ではないでしょうか。
※次回のテーマは<採暖をもう一度科学する>です。
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vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
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