ところで湿度って何パーセントがいいの?

先ほどはとりあえず「相対湿度を50%」と仮に決めてしまいました。では室内の湿度はどれくらいがよいのでしょう。実はこれは簡単には答えることができない、深いテーマなのです。

厚生労働省の「建築物環境衛生管理基準」では、相対湿度は「40%以上70%以下」と定められています。このせいか、日本では湿度は50%くらいが適正、という認識が一般にあるようです。

それでは、海外ではどうなのでしょう。世界で最も権威のある空調設備の学会であるアメリカ空調学会(ASHRAE)では快適な温度(垂直線)と絶対湿度(水平線)の範囲を図3のように示しています。着衣量の違いにより、異なった2つのひし形の快適範囲(冬:左・低温 夏:右・高温)が示されています。湿度の上限と下限、つまりひし形の上辺と下辺を見ると、12グラムと0グラムとなっています。つまり、湿度は0グラム=0%でもかまわない、「人間は乾燥に鈍感である」といっているのです。「乾燥に敏感」な日本人からすると、これにはちょっと驚いてしまいますね。

図3 アメリカ空調学会ASHRAE55における温度・湿度の推奨範囲
アメリカ空調学会の基準では、結露防止の観点から湿度の上限は12gが推奨されていますが、下限値は定められていません。湿度が0gでもかまわないとされているのです。

人間は湿度に鈍感という意外な事実

ASHRAEと並んで室内の温熱環境で最も重要とされるISO7730においては、湿度についてはAnnex Fの中で以下のように簡単に触れられているだけです。

「湿度は人体の熱的な快適性や熱バランスに影響を与える。しかし、26℃以下の中庸な環境で活動量が2メット以下の低い状態においては、湿度の影響は限られる。中庸な環境においては、湿度は温熱感覚にさしたるインパクトを与えない。通常、相対湿度が10%高いと作用温度が0.3℃上昇したのと同程度の影響がある。より温度が高く活動量が大きいと影響は増加する。また過渡的な状況においては、湿度は大きな影響がある。温熱環境という観点においては、温熱感覚や皮膚の湿り感・乾燥感・目への刺激なども含めて、広い幅の湿度が許容できるのである。」

また1974年出版の「建築気候(斎藤平蔵著)」の中には、「誤った湿度感」と題して以下のように書かれています。

「人間は湿度に対しきわめて鈍感で、ほこりや臭気あるいは静電気とか材料の収縮などがないと20%ぐらいまで気づかない。逆に汗さえかかなければ80%以上でも気づかない。住宅で冬期結露防止上必要なら30%まで乾燥させても少しも気づかない。空気調和設備を施すときも湿度は30%程度で支障ない。日本では湿度は50〜60%が快適だとする誤った感覚があるが、これにこだわると設計を困難にすることが多い。」

加湿でインフルエンザを防げ?

実は、こうした人間が湿度に鈍感であるという研究結果は、以前から専門家の間では常識でした。それでは、なぜ日本では「湿度50%」という数字がまかりとおっているのでしょうか。実は乾燥感のためというより、「インフルエンザウイルスの感染予防」が第一の理由と言われています。

図4に示すように、インフルエンザウイルスは湿度が50%以上になると短時間で不活性になることが知られています。日本では「加湿で風邪の予防」が、医療関係のニュースや情報番組などでもかなり重視されているようです。

一方、海外で加湿は予防の手段とみなされていません。アメリカ疾病予防管理センターで取り上げられているインフルエンザの予防手段は、「ワクチンの接種」「菌の拡散予防」「医者の処方する薬の服用」の3つであり、室内空気の加湿はいずれにも含まれていません。日本の「加湿で予防」は、世界的にみるとかなり「ガラパゴス」な現象のようです。

図4 湿度50%はインフルエンザ予防のため?
日本においては湿度50%が推奨される根拠は、インフルエンザウイルスが高湿環境では生存時間が短いためとされています。しかし他の方法で対処が可能な疫病の予防のために、大きなリスクを背負ってまで加湿を行うのは疑問が残ります。なおアメリカにおいては、インフルエンザの対策は「ワクチンの接種」「菌の拡散予防」「医者の処方する薬の服用」であり、室内空気の加湿は有効な手段とされていません。

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